夏ざっと
この節は、赤ん坊が生まれるとすぐ目薬をさすから、盲はのうなってしまったが、昔は、ざっと(座頭)というて、三味線をかかえて歌をうたって、乞食して歩くものが廻り返って来たもんじゃ。
およし乞食といって、夫婦げんかをして歩く妙な乞食がおって、おたがいに「殺いてくれるに」なんぞと口ぎたないけんかをしながら、結構連れたって歩いておったし、そうかと思うと、でかい犬を連れた乞食もおった。そして女の盲は瞽女(ごぜ)と云った。
昔、ある夏ざっとが旅しておったら、うわばみがあらわれて、ざっとを丸呑みにしてしまったそうな。そしたら、ざっとめがうわばみの腹のなかで、(よわったことになったが、あわてたところでしようもない。弁当でも使わず)と思って、背中においねた弁当を広げたそうな。そこで、菜入れの煮豆をば、うわばみの腹のなかじゅうに噛んでやひっつけ、噛んでやひっつけた。
ようのこそ、うわばみが腹痛をおこして、大腹下だしをしたので、ざっともおかげでしゃばへ出ることができたそうな。そこでうわばみの云うことにゃ、
「いくらひもじゅうても、夏ざっとだけはつつしまにゃならん。」
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