「トム・ゴードンに恋した少女」 - 2010 /3/8 -
アパラチアン・トレイルをご存知ですか? アメリカ東海岸沿いを南北につらなるアパラチア山脈のふもとを縦貫する自然遊歩道です。 全距離3,500kmを越え、南部ジョージア州からはじまり、北のメイン州までの14州をまたいだ大自然ロングトレイルで、最も高い地点でも2,000mぐらいです。トレイルには幾つかの国立及び州立公園があり、当然国道等も数ヶ所横断しています。全区間踏破するにはベテランでも4ヶ月から5ヶ月はかかるといいます。そのため道々にはシェルター、避難小屋が多く設けられ、また車道が交差するとこから付近の村や町で休憩することもできます。近くには、(近くといっても車でですが)ボストン、ニューヨーク、ワシントンDCもあり、全踏破しなくても、長い休暇を利用したり、車を使い週末の数時間内で森や丘を家族連れで歩くトレッカーも多くいます。(ウィキペディアより) そのアパラチアン・トレイルを舞台とした物語、「トム・ゴードンに恋した少女」 (1999年) を紹介します。 作者はホラー小説の帝王、スティーブン・キングです。
親が離婚しふたりの子らの養育権は母親がとった。13歳の兄、ピートと10歳になろうとしている妹、トリシアにはそれがとても不満だ。特に兄は前の学校ではコンピューター部の部長として君臨し友だち、つまりコンピューターオタクにかこまれ天国気分だった。それが今度の学校ではコンピュータ学部などなく友だちもできないでいる。心底から前の学校へ、つまり父のところへ戻りたがっていた。もっとも父と暮らすのが最善とは考えていないが。 いっぽうトリシアは今の生活にそれなりに順応していた。母はそんな子らの機嫌取りか、二人をつれてほとんど毎週、「週末の小旅行」と称して植物園、動物園へとつれてまわる。 今回はアメリカ東部のアパラチア山脈をはしる遊歩道を10キロばかり歩く計画だった。母が選んだコースは、車をトレイル脇の国道に留め10キロばかり遊歩道を歩き国道に出て迎えの車に乗り戻ってくるという、難易度からいえば3,4時間歩行の中程度です。でも気乗りしないピートはここでも母と口喧嘩に余念がない。 言い争いをしている二人の後ろをトリシアは、パパが苦労して手に入れたサイン入りの野球帽をかぶりついていく。それはボストン・レッドソックスのリリーフ投手、背番号36のトム・ゴードンの野球帽だ。背負ったリュックにはペットボトルのミネラルウォーター大瓶、昼食のサンドイッチ、それに雨よけのポンチョがいれてあった。 トリシアがしっこしたくなり道をはずれた茂みに入り込んだときからトリシアにとって最悪の旅と化してしまう。もとの道へ戻るるかわりまっすぐ進めばまたもとの歩道に出くわすと予想したばかりに。トリシアはいつの間にか道に迷ってしまった。トリシアは川に出ればふもとの人家に通ずるとばかりどんどん川を求め森深くはいります。
ひとすじの川が沼となりトリシアは落胆し、スズメバチに襲われ、しかも山の水で喉の渇きを満たすが、ひどい下痢や嘔吐に声をあげて泣き出すはめになる。 そのトリシアを助けたのはリュックに入れていたラジオ付のウォークマンだ。 トリシアが外の世界と通じているのはラジオから流れる音楽であり、そしてお気に入りの野球チームの実況中継を聴くことだった。その中でもアメリカン・リーグのセーブ記録を更新つづけるトム・”フラッシュ”・ゴードンの活躍がラジオから流れるのを雄一の励みとなりつつあった。 いつしかトム・ゴードンの見えない姿に励まされ、トム・ゴードンが九回裏のピンチを脱するのとトリシアがこの森から抜け出すことがリンクしていくようになる。
トリシアは何かがあとをつけてうかがっているのを感じながら・・・・。
このS・キング作品にはホラーの要素はありません。どちらかといえばヤングアダルトブックのジャンルにはいるでしょう。物語りもストレートなサバイバルものです。もっともキングには、「スタンド・バイ・ミー」のような幼青年ものの傑作も多々あるのでめずらしくありません。九才の少女が森に迷うきっかけにいささか強引さがありますが、数日間の森で生きてゆくさまはさすがに読ませるものがありました。
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