ブナ林を歩いて- 2005 /6/2 -
日本の高山雑木林の代名詞ともいうべきブナの森を歩いても、これがブナだと指すことができない。ブナとの札が垂れ下がっていなければ、太い幹だなってな思いでとおり過ぎてしまう。何とも情けない山歩き人種である。これではいけないと自省し、山地の森林植物図鑑を購入したのが昨年、特に山腹に植生する落葉広葉樹林をみることにした。 日本のブナ林の特徴としてあげられるのは、 1.林床にササ類が繁茂している 2.常緑低木が伴っていること、 などがあり、また日本海側と太平洋側とでも特に高山帯では異なった林が形成されるとある。日本海側の林は圧倒的にブナが中心となり、太平洋側のそれはヒノキやツガなどの温帯性針葉樹も混じる。これは、豪雪のため雑多な植物が繁殖しないことが原因と考えられている。 日本のブナ科は、ブナとイヌブナの二種がある。まずブナの葉は葉形にそれとわかる特徴がある。葉のうちが波形となり波の凹んだところにすじ、側脈が入る。このような葉形は他にはない。そしてブナとイヌブナの見分け方はその側脈の数で知る。ブナは10くらい、イヌブナは15くらいである。ブナの水平分布、ブナ帯をみると北海道道南から東北、中部が主ですが、標高1000mあたりの中国、四国及び九州の高山にも見られるとある。ブナの本場は豪雪地帯、東北地方にある。 ブナの葉形からブナと判別できても実際森でブナを見つけるのは容易ではない。あたりまえである。ブナ林はいろんな木々が混在しているからである。こうなってくると図鑑を見ただけではわからない。やはりそれなりの知識が必要となる。 図書館で手軽に読めれる小誌をさがしていたら、こんな本が見つかった。
西口親雄著「ブナの森を楽しむ」岩波新書1996年発行
目次を拾うと、
1.ブナ帯スケッチ
2.ブナの森に入ってみよう
----------3.ブナの一生
----------4.ガとチョウからみた日本のブナ
----------5.森の安全保障システム
----------6.伐採と開発を考える
----------7.復活への模索
特に、2.で描かれたいろいろな芽や葉の形、ブナ林の構造の絵などは長年、森を友としてこられた著者ならではのデザインである。
この小誌で著者がより強く述べたかったのが、6で書かれた国有林の問題である。 戦後の木材需要から始まった国有林内の無秩序なブナ伐採とスギ・ヒノキなどの針葉樹林への転換が今日の林業の危機の原因となったと言われるようになって久しい。安い外材の輸入もそれに拍車をかけた。そのため森林経営も個人、国有を問わず苦しくなった。独立採算制になった林野庁は世論に押されてブナ林に伐採を最盛期に比べて約半分に減らしたという。その結果、その不足分を国の一般会計から借りるようになった。利息も付けて。それが積もり積もって約三兆円を上回る借金となっている。まるで消費者ローンの債務に落ちこんだようだ。 著者はここで、「ブナを伐るな!」とは言っていない。広葉樹は伐採しても根株から萌芽してまた樹林を造る。これが土水環境をも守る二次林である。里山の二次林を強く勧めている。そして山をスギ一色にせずブナなどの広葉樹を残し混成林とするよう提唱している。つまりかっての里山の雑木林を取り戻したいのである。 ブナの森に入って個性ある樹木を観察し、そこに生息するチョウがガなどの虫たちとの共生からブナの森の一生を考え、そして森の復活への提言へとこの小誌は今の森を知るうえでおおまかな様子を短時間で読み取ることができる。 あとがきで、ユネスコ世界遺産指定された東北の白神山地の入山禁止について言及している。白神山地のブナ林が東北の他のブナ林と比べて特に優れていると思えないと言い切る著者は、なぜ大ぜいの人が白神山地へと押し寄せるのか理解に苦しむとなげく。白神山地の森は地元に住むひとたちのものではなかろうか。なにも白神までゆくことはない。白神はクマゲラに返そうでないかと。これは私たち山歩きにとって傾聴すべき言葉だと思う。
5月末、美濃白鳥の井洞国有林を歩くにあたってこんなことを考えてみた。
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